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連載コラム ある変革実践リーダーの荒波奮戦航海記 ~海図のない海をすすむ~
若林 健一
第10回 挑戦する組織・人づくりのために私たちがしてきたこと(後編・人編)
機会を提供して任せ切らない距離感
他の分野と同様、データ分析の世界でも、座学で基礎的なスキルを身に付けることはできる。しかし、独り立ちするには実地での経験数が重要になってくる。自分で分析した結果を顧客にレポーティングし、フィードバックを受けるというサイクルを経験してしか身に付かない部分がどうしてもあるのだ。つまり、案件数、すなわち「機会」の数が多ければ多いほど成長も速くなる。正の相関関係にあるということである。
私が「機会」を提供する上で意識しているのは、メンバーのスキルを見て適度にストレッチングな案件をアサインすること。そして「任せ切らない」というスタンスをとること。この二点である。
難易度は高すぎても低すぎても人の成長につながらない。この塩梅が非常に難しく、マネージャーとしての手腕が問われるところだと思う。少し背伸びした機会を提供することで、成功体験を積ませる。そして褒める。成功体験や人から褒められることで生まれる自信は、次の挑戦への何よりの糧になるからだ。実際、成功体験を積み重ねるうちに、メンバーの目から自信が見て取れるようになってきている。

また「任せ切らず」、任せながらも、いつでもフォローする姿勢を見せることも重要だ。後方の守備がしっかりしているからこそ、前線の選手が安心して攻撃できるのだ。丸投げするような上司の下では挑戦する人は育たない。これは「愛情が大切」という前回の内容にも通じる部分である。
100m理論で環境を整える
挑戦する人づくりにおいて私が参考にしたものの一つに、陸上競技の100mの世界で起きたエピソードがある。
ジャマイカの元陸上競技短距離選手ウサイン・ボルト氏が驚異的な世界記録をマークした後、同国や周辺のカリブ海諸国の選手の記録が上がった時期がある。人類の限界を一気に引き上げたボルト氏に触発され、自分でも出来ると思い込んだ選手たちが、引きずられるように好記録をマークしたのだ。しかし、当時、日本人選手の100mの記録は上がらなかった。その後、中国の選手がアジア出身選手として初めて9秒台をマークすると、日本人選手の9秒台が続出し、現在日本男子短距離陣は空前の活況を呈しているのだ。
つまり、自分に近しくない(と自分で認知している)人が活躍していても「あの人は特別だから」と言って、自分も出来るとは思いにくい。一方で、自分に近しい人が活躍し出すと「自分も出来る」と思う。これが人間の性なのだ。

私はこれを100m理論と呼んでおり、このメカニズムをチームの人材育成に取り入れている(高名な脳科学の先生も「伝染効果」として同様のことを言われている)。成長が見られたり挑戦しているメンバーを意識的にクローズアップしたり話題にすることで「自分も出来る」と思わせる取り組みである。近しい人が成長したストーリーを見せることが、周囲の人の挑戦心をかきたてる効果的な仕掛けであるからだ。「あの人は最初からすごかった」とか「自分とは違う」と思わせてはいけない。
本コラムが「裸になれ」というコンセプトのもと、上手く行かなかったことも含めて、出来るだけ実態を包み隠さず発信している理由もここにある。「挑戦する人が少ない」というのは、一企業に留まらず、もはや日本という国自体が陥っている社会的な問題だと感じている。それ故、試行錯誤を繰り返しながら、挑戦をし続けている私たちの活動を発信することで、少しでも多くの「挑戦」を後押し出来ればと願っている。
執筆者プロフィール |
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若林 健一
NECマネジメントパートナー株式会社 業務改革推進本部所属 1980年 生まれ 2002年 NEC入社 2018年 NECマネジメントパートナーにて高度化サービス開発チームを設立 経営管理・人事・マーケティングを中心に、データアナリティクスとAIを活用した NECグループの経営高度化について、2年間で200プロジェクト実施 NEC Contributors of the Year2019など数々の賞を受賞 ![]() |