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連載コラム ある変革実践リーダーの荒波奮戦航海記 ~海図のない海をすすむ~
若林 健一
第20回 石橋を叩き過ぎ?デジタル化がもたらす行動様式の変化とは。
ある事業部長との出会い
もう少し確かなエビデンスが欲しい。
今までどこかで実践した前例はないのか。
チーム設立2年目になり、私たちの顧客であるNECグループの経営層からこういった声を頂戴する機会が増えていた。
そして、この質問にいつも答えられない自分がいた。
その度に歯痒い思いをした。
そんな中、ある事業部長との出会いが私たちの運命を大きく変えた。その事業部長は就任された直後で、「これから組織の変革を進める。その支援をして欲しい。」という要望だった。それから現在に至るまで、継続して支援させて頂いているのだが、双方にとって非常に実りの多い取り組みになっている。実際に経営指標の改善(エンゲージメントスコア 前年比180%の大幅改善)が見られたことも当然重要なのだが、何よりそこに至ったプロセスこそが私たちの財産となっている。
それは仮説を元にして検証サイクルを回し続ける
ということである。
それまでは施策の有効性を担保して欲しいという要望から、冒頭のようなコメントを頂戴することが多かった。しかしこの事業部長とは、ある程度、仮説段階でも実際に施策を実行し、効果測定をしながらやり方を柔軟に変えていくといった方法をとっている。結果としてこのサイクルを回し続けた方が、施策ノウハウやデータの蓄積が早い。継続すればするほど施策の精度が上がってくる。このような好循環を創れるようになったのである。
この体験から私は重要なことを学んだ。仮説で動く力、「とりあえず試す」といったマインドである。
「とりあえず試す」ことがなぜ重要なのか

大量のものを試して、うまくいったものを残す
「ビジョナリー・カンパニー」で有名な著者が、そういった企業に共通してみられる特徴として指摘した点である。
これからデジタル化が進んだ世の中になっていくと、この傾向がより顕著になると私は考えている。当然変化が早く、正解がない時代になってきているといった理由もある。しかしどちらかというと、試すコストが劇的に下がることがこの傾向に拍車をかけるのではと思っている。
大量の資本や工場設備がないとビジネスが行えない。何かを試そうとしても生産ラインを確保しなければならない。かつてボトルネックになっていたこのようなポイントが、デジタル化が進むと解消されてくる。なぜなら、すごく大雑把に言ってしまえばデジタルデータはコピペ可能な代物であり、限界費用が限りなくゼロに近いからだ。つまり、試すコストが下がってくるので、費用対効果が今までと全く異なる時代に突入するのである。今後あらゆる産業がデータ×AI化されることは、AIの有識者であれば異口同音に発言されていることであり、これはどの産業にも起こることだろう。
つまり、やればやるほどノウハウが溜まるだけ。
これからは「やったもの勝ち」な時代になるということだ。
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