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連載コラム ある変革実践リーダーの荒波奮戦航海記 ~海図のない海をすすむ~

若林 健一

第19回 言ったもの勝ちこそ時代のトレンド?AI時代に必要なスキルの磨き方とは

2020年12月18日

多様な知を編集する力

他人が持っていないとすれば、それをどのように自ら産み出せば良いのか。重要なポイントの二点目は、アンテナ高く情報を取りそれをつなぐことだ。

多様な知に触れあう機会を増やすことで「問い(仮説)」の精度は上がる。これは自分の経験から思うところだ。

私は入社後15年近く経理・財務の領域で仕事をしていた。その頃は今ほど多様な知に触れる機会もなく、上から言われたことを如何に早く正確に処理できるかを信条としていた。若手の頃は上司に向かって堂々と「ルーチンワークだけやりたいです」と宣言していた。今の私だけ知っている人からすると、全く別人だと思われることも多い。

そんな私だが、チーム設立により、元々持っていた経理・財務の専門性に、人事などの違うドメイン領域やAIなどのテクノロジー領域の異なる知見が加わった。これにより、一気に「問い(仮説)」を立てられるようになっていった。

「あの人が言っていたことと、この前調べたこの技術を組み合わせるとこんな価値が産まれる」といったように、自分の頭の中で多様な知を「編集」できるようになっていったのだ。

一つの情報を点で終わらせずに線でつなげる

まさに

Connecting the dots※

である。

15年も一つの仕事をしていたことで、終盤は将来のキャリアに焦りも感じていた。しかし今思えば、その経験が自分の中で土台となっており、決して無駄ではなかったと感じている。

 

「言った者勝ち」な時代

情報をつないだ後、最後のポイントになってくるのは「常識を疑う力」を身に付けることである。

「世の中の常識だから」

「それは慣習なので」

こんな考えをしている様では、せっかく多様な知に触れ、編集できたとしても良質な「問い(仮説)」は産み出せない。

かつては常識と思われていたことが非常識となる。非常識と思われていたことが常識になる。テクノロジーの急激な進化により、こういったことがざらに起こる時代に突入している。

iPhone誕生当時アマチュアレベルに負けるほどのレベルであった囲碁のAIは、わずか9年でトッププロの誰もが勝てない状況になった。

また2010年代初頭には全く人間に太刀打ち出来なかった機械翻訳の精度は、既に人間のプロレベルまで到達しつつある。

現在出来ないからと言って、10年単位で見た時にはかなりの確率で実現されることを前提で物事を考えておかないと、良質な「問い(仮説)」は産み出せない。少々大げさに言うと、技術的に難しいからという理由であきらめる必要なんかない時代に私たちは生きているのだ。

それ故、過去の常識や慣習に捕らわれず、「何をやりたいのか」を追求することこそ、重要だ。究極的には人間という存在自体をどこまで深く掘り下げるかいうことに尽きるのだと思う。AIは確かに世の中に大きなインパクトを与えるテクノロジーではある。しかし、主従関係で捉えると「従」のポジションに過ぎない。「主」はあくまで人間だ。人間が幸福な人生を送るためにAIは使われるべきで、だからこそ人間に対しての洞察が重要だと私は考えている。


可能性は無限にある。自ら考え行動し、問いを創れる人にとって仕掛けるチャンスはいくらでもある。いわば言った者勝ちな時代なのだ。このようなダイナミックな時代にビジネスの現役として携われることを、心から幸せに感じている。

問いは外には無い。自ら仕掛けろ。

いつも自分に言い聞かせている言葉である。


言っただけでは価値は産まれない、それをどうカタチにし価値に変えていくか。
次回はやったもの勝ちについてお話したいと思う。

(※)Connecting the dots
これは2005年、スタンフォード大学の卒業式の演説で
スティーブジョブズ氏が語った伝説のスピーチで
「点と点をつなぐ」
意味としては、過去の経験がその当時は思いもよらなかったことに活かせる状況を指す。


執筆者プロフィール
若林 健一
NECマネジメントパートナー株式会社
業務改革推進本部所属
1980年 生まれ
2002年 NEC入社
2018年 NECマネジメントパートナーにて高度化サービス開発チームを設立
経営管理・人事・マーケティングを中心に、データアナリティクスとAIを活用した NECグループの経営高度化について、2年間で200プロジェクト実施
NEC Contributors of the Year2019など数々の賞を受賞
執筆者:若林 健一