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税務調査も「AI時代へ」シニア世代が知っておきたいポイント

(2025年11月掲載)

あおばコンサルティンググループ代表 田口 豊太郎(税理士)

こんにちは。税理士の田口です。

 今回のメールマガジンでは、最近話題となっている「税務調査のAI活用」についてお話しします。

 「私は年金生活だから、税務調査なんて関係ない」とお思いの方もいらっしゃると思いますが、実はそうとも言い切れません。国税庁は、今後の税務調査に“AI(人工知能)”を本格的に導入していく方針を打ち出しており、シニア世代の申告や相続、収入状況にも影響が及ぶ可能性があるのです。
今回は、「どんな変化が起きているのか」「どんな準備をしておけば安心か」を順を追ってご説明いたします。


1.何が変わるのか?

 国税庁は「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」を掲げ、AIとデータ分析を活用して、申告内容の正確性や調査対象の選定を進めていく方針です。

 具体的には次のような流れになります。
過去の調査結果や申告書の内容をAIに学習させる。
財産債務調書・海外送金記録・支払調書など、多様なデータを横断的に分析する。
その結果、AIが「不自然」と判断した申告を、税務署が優先的に調査する。

 このように、AIによってリスクの高い案件を的確に抽出できるようになるため、調査件数は減っても、1件あたりの追徴税額は増える傾向にあるといわれています。つまり、効率的かつ精度の高い調査が行われる時代になったということです。


2.シニア世代として気をつけたいポイント

 「年金だけの生活だから関係ない」と思われるかもしれませんが、次のようなケースでは注意が必要です。

相続や贈与など財産移転があった方
 財産債務調書や海外送金データなどもAIの分析対象となります。
年金以外に少額でも収入(アルバイト・不動産・配当など)がある方
 AIは、申告内容と実際の入出金のズレを容易に見つけ出します。
海外資産や複数の金融口座をお持ちの方
 国際的な金融情報の連携が進んでおり、これまで見えにくかった資産も把握対象に含まれます。


3.どう準備すれば安心か

 AI時代の税務調査に備えるためには、次のような基本を心がけてください。

申告書・財産目録・通帳の入出金履歴を整理しておく。
相続があった年は、財産の種類・取得価額・支払いの有無を明確にしておく。
年金+その他収入がある場合は、「合計でどれくらいの所得になるか」を把握しておく。
贈与契約書や生命保険の一時金、海外送金記録など、長期保管すべき資料をきちんと残しておく。

 特に大切なのは、「あとで整理しよう」と放置しないこと。AIは膨大なデータを比較し、不自然な点を瞬時に見つけてしまいます。正確な資料に基づく申告こそが、最良の防御策です。

 税務調査は、これまでの「人の経験と紙の資料」から、「AIとデータ分析、電子情報」の時代へと確実に移行しています。
年金を受け取っているだけの方にとっては、ある意味で公平で透明な仕組みになる一方、油断は禁物です。

財産・収入・申告内容をしっかり整理しておくことが、今後ますます重要になります。
「私は関係ない」と思わず、まずはご自身の申告内容を一度振り返ってみてください。
それが、AI時代の税務を安心して迎える第一歩です。ではまた。