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超短納期時代の対処法
PJ活動お役立ちコラム
第88回 2022年8月2日
超短納期時代の対処法

近年、イノベーションのスピードはますます上がっています。開発プロジェクトも社内プロジェクトもスピードが求められることが多いでしょう。それは顧客の側も同様で、最近は従来の常識では考えられないくらい納期が短く設定される「超短納期」のプロジェクトが増えていると聞きます。
2年でやる仕事を半年で遂行する
先日、ある開発会社の方からこんな話を聞きました。
顧客要求は、とにかく○月までに使い始めたい、ということ。納期が最優先の仕事だったそうです。技術的には決して難易度が高いものでもなく、コストも品質もうるさく言われないが、とにかく時間が無い。感覚的には、2年でやる仕事を半年でやれと言われるくらいに無茶な仕事だったそうです。
普通の納期調整では太刀打ちできないような、超短納期プロジェクトです。
通常のプロジェクト遂行では、「やるべきこと」を省略せずきちんとこなすことが理想です。進捗を急ぐあまり要件定義があいまいなままに作業を開始したり、設計段階でタスクを省略したり、試験項目を減らしたりした結果、品質悪化を招き、プロジェクトの失敗につながるといった事例はいくらでもあります。それを防ぐために社内規定があり、プロジェクト開始時には計画審査があり、プロジェクト遂行中も上位者や識者による工程審査が設けられたりします。すべて、過去の失敗から学び成功した経験を次に活かすための仕組みです。これがしっかりできている組織は、やはり強いです。
が、これらのルールは、ルール通りにプロジェクト遂行できることが前提にあります。そしてルール通りにプロジェクトを進められるように、契約段階で顧客に納期調整したりスコープの調整を行います。この調整がうまくいかないようならば、契約自体が成立しません。
ところが、冒頭の超短納期プロジェクトのような例では、「調整」の余地が無い場合があります。その納期では対応できません、という回答は、競合にみすみす仕事を明け渡すことにしかならないかもしれません。どうしたら良いでしょうか。
何をやらないか、を決める
取り得る方策のひとつは、顧客と交渉して「何をやらないか」を取り決めることです。言うならば、通常のルール通りにプロジェクト遂行することの方を取りやめるのです。
たとえば、優先順位が低い機能項目は実現できなくても不問とする、性能要件は必要最小限のレベルで合意する、取り決め外の非機能要件は追及しない、といった要件定義の面で「やらなくて良い範囲」を取り決めます。あるいは、概要設計書があれば他の設計書類は不要とする、ソースコードは納品不要とする、定例会は行わず議事録の作成も不要とする、運用手順書は最低限度の目次項目のみ取り決め、後の作成は任意とする、といった成果物の面で「作らなくても良いもの」を定めます。つまり、プロジェクトで「何を実施するか」よりも「何をやらないか(捨てやすくするか)」を合意するわけです。
もちろん、「何をやらないか」を決めると言っても、プロマネあるいはプロジェクトメンバーには、そのプロジェクトを成功させる責任があります。要件定義や基本設計、それに基づく詳細設計、製造、試験、といったプロセス自体は「やらない」対象にはできません。むしろ、顧客納品物として不要だからといって何のエビデンスも残さないと、後々改修や機能強化が発生した場合や不具合調査を行うときに自分自身が苦労します。少なくとも設計の勘所や設計思想のようなものは適切に残すような工夫が必要です。
また、取り決めた開発要件や機能要件・非機能要件を正確に記録して文書化することも重要です。機能・性能面では顧客から見れば妥協するわけなので、検収時あるいは納品後にトラブルにならないよう手を打っておくのです。
組織も時代の変化を受け入れないといけない
もうひとつ、社内調整という視点でも注意が必要です。
設計書は納品しないから見た目の不統一はそのままとする、途中まで作り込んだ機能のうちいくつかは破棄して納品、バグは収束していないが契約上問題なし。たとえそれが顧客と合意のうえとしても、社内ルールに照らすと欠点だらけになり、工程審査も「対象外」ばかりで審査の体をなさないことになります。「手抜き」を嫌う上位者の指示で、いつも通りに設計書を作るよう方向転換させられるかもしれません。実績豊富で識者を多く抱える組織ほど、こういった新しいタイプの契約形態を受け入れにくい傾向があるようです。
プロジェクト側の視点で言えば、「何をやらないか」を決めたら、それを最後まで貫く覚悟が必要です。社内でどれだけ反対に合おうが、最後までやり切ることも、プロジェクトの責任です。
組織側も、こういった時代の潮流、顧客の変化にどう対処していくか、よく考えるべきです。いま見て来たような超短納期のプロジェクトは、業界を問わず増えています。これまでの常識では考えても見なかったようなことを要求される時代です。前例がないからと尻込みせず、一見すると無茶なプロジェクトにも果敢に挑戦する姿勢が求められているのかもしれませんね。
みなさんの活動に少しでもヒントになりましたら幸いです。