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心と体の不思議な関係から「判断」について考えてみる
PJ活動お役立ちコラム
第66回 2022年3月1日
心と体の不思議な関係から「判断」について考えてみる

暦の上では春ですが、まだまだ寒い日が続きますね。
お仕事のお供に温かいコーヒーやお茶を好んでいる方も多いのではないでしょうか。
温かい飲み物や食べ物を体にいれると「身も心もほっと温まる」とよく表現されますが、実はこういった「身体の感覚」が無意識にその人の推論、判断、行動に影響を与えることはご存知ですか?
温かいコーヒーを持つと…
心理学の分野で有名な研究をご紹介します(Williams & Bargh, 2008)。
まず前提として、この研究に協力した被験者は研究の目的を知らない状態で実験に参加します。
実験室に一人ずつ案内される途中、案内人が「メモを取りたいので預かっていてほしい」と伝え、さりげなく自分の持っているコーヒーを被験者に預けます。
このとき、被験者は温かいコーヒーを渡されるグループと、冷たいコーヒーを渡されるグループの2つに分けられていました。
実験室に入室後、被験者は実験者から「ある架空の人物」についてのプロフィールを提示されます。
被験者はこの架空の人物について印象評価を行いますが、実験室に来る途中で温かいコーヒーに触れたグループの被験者はその架空の人物を「あたたかい」と評価しやすいということがわかりました。
つまり、「手が温かい(皮膚感覚)」という極めて物理的な感覚が無意識に他者への印象評価に影響を与えているということを明らかにしたのです。
そして、もちろん被験者はこの実験の目的を知らないので、このような評価は無意識のうちなされているというのです。
これは「身体化された認知 (embodied cognition)」といわれる現象の一つで、他にも視覚(明るい・暗い)、運動(重い・軽い)といった様々な身体感覚において同様の現象がたくさん報告されています。
無意識の持つ力に惑わされないために
こうした研究はとても興味深い反面、人が自分でも気づかないところで、周りの影響を強く受けていることを示しており、ゾッとしますね。
さて、私たちが対峙しているプロジェクトは「変化」と「判断」の連続であり、さらに一定の期間内に成果を出さなければいけない、という厳しい制約があります。
しかも、今の時代、明確な正解が存在するケースは稀です。プロジェクトのリーダーやメンバーは収集した情報や経験から総合的に「最適解は何か」を判断しなければいけません。
人間の持つ無意識のメカニズムに惑わされずに、合理的な判断ができるようにするにはどうしたらよいでしょうか?
1. 判断の基準を明確にしておく・共有しておく
前述した通り、必要に迫られて下す直感的な判断は、そのときの状況(環境や感覚)や思い込みから無意識に影響を受けている可能性があります。
一つおすすめしたいことは、あらかじめステークホルダーを含めたプロジェクト関係者全員に、プロジェクトとしての判断基準を明確に示し、共有していつでも見られる場所に置いておくことです。
プロジェクト憲章はプロジェクトを発足させるときだけでなく、プロジェクトを運営する上での指針となる重要なものです。
プロジェクトの目的、社会的な意義、ゴール基準と併せて、このプロジェクトでの基本方針を示しておくとよいでしょう。
日本の企業においては、プロジェクト憲章が作成されないままスタートする、もしくは作成されていたとしても形骸化していることが多いように感じますが、これを機に見直ししてみてはいかがでしょうか。
2. 知っていること
当然ではありますが、冒頭でご紹介した実験の被験者が本来の目的を知っていたならば実験の結果は変わったでしょう。
そして、ここまで読み進めてくださった皆さんは、すでに「無意識の持つ力」を知っています。
(たとえば、この後に誰かからさりげなく温かいコーヒーを預けられたら「ドキッ」と身構えますよね?)
日々の業務の中で判断を下す際には、周囲の環境(寒さ、照明の明るさ)や思い込み(上司の〇〇さんが言っているのだから正しいだろう)に無意識に影響されていないか、常に客観的に自分の状況をとらえ、疑う癖をつけてみましょう。
最後に
余談ですが、今回のコラムの冒頭でご紹介した「身体化された認知」はデザインやマーケティングの領域においては、むしろ積極的に活用する立場で発展してきました。
- 洗練されたイメージを与えるために、寒色系を基調としたデザインにする
- 自分より高い場所にいる人に対して権威を感じやすい
などです。
日頃から身の回りで「人間の無意識」をうまく活用したコンテンツを見つけてみると、日々の業務やコミュニケーションでも活かせるかもしれませんね。
さて、2021年度もあと少しです。
忙しい仕事の合間には「温かいもの」の力を借りて、身も心も一息入れつつ、新しい春を迎えましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本コラムでご紹介した研究
Williams, L.E., & Bargh, J.A.(2008). Experiencing physical warmth promotes interpersonal warms. Science, 322, 606-607.